2008年10月22日

自主行動計画を取引化するバカ

 いわゆる日本型の排出権取引「試行」が、制度の失敗を確認するためのテスト期間となったことについて、環境NGOからの失望の声が出ています。

どうしてこう後追いでの制度導入すら失敗するんでしょうね。

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                           2008年10月21日
                     浅岡美恵 気候ネットワーク代表

「経団連自主行動計画の取引化」ではなく、
国際社会に通用する国内排出量取引の制度議論を直ちに開始すべき

何のための試行か

 政府は21日、地球温暖化対策推進本部において、「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」を決定し、参加企業の募集を開始した。6月に福田ビジョンにおいて提起され、7月29日の低炭素社会づくり行動計画で10月を目途に試行的実施を開始するとされたものである。これをもって「国際的なルールづくりの場でのリーダーシップの発揮につなげる」としている。
しかしながら、本試行は排出削減を目的とせず、また削減を約束するものでもない。取引制度の必要性を否定する経団連の主張をそのまま受け入れ、自主行動計画の名前を「取引」と言い変えたに過ぎない。しかも、これを2012年まで継続させることで第1約束期間に国際標準のキャップ&トレード型の排出量取引制度の導入を阻止しようとするものである。これでは、日本が温暖化対策でますます世界から取り残されるだけでなく、世界に日本への失望感をさらに高めるであろう。このような「試行」に時間を浪費するのではなく、直ちに真に世界に通用する本格的国内排出量取引制度の制度設計のための議論を広く行うべきである。

取引制度の目的は総量での大幅かつ確実な排出削減

2005年に取引制度を導入したEUに加えて、米国の北東部の州で今年から実施段階に入り、オーストラリアでも2010年の実施に向けての制度準備が進められている。いずれも、2020年の大幅削減の準備、さらには2050年までに世界で半減し、先進国がそれ以上の大幅削減を行っていくために、国内での総量での大幅排出削減の中核的制度として導入しているものであって、政府がCO2など温室効果ガスの排出主体に、直接排出による総量での排出上限枠を定めて行うキャップ&トレード型排出量取引制度である。
しかし、わが国がようやくこれから行おうとする本試行では、中心をなす大口排出事業者についても参加を義務付けるものでなく、間接排出によるもので、原単位目標の選択も可とし、かつ目標数値自体を企業が任意に設定することを可としており、経団連自主行動計画と大差ない。その条件といえば、指標を任意に選ばせて単に「直近の実績以上」というだけであって、現状維持でよく、結果として排出を削減させようとするものではない。基準年も目標年も2012年まで任意に設定し、中小企業や農林業、民生部門まで拡大して目標達成に利用できるクレジットを認めようというものであるから、経団連自主行動計画よりも企業に甘い仕組みと解することもでき、自主行動計画の目標達成を免れようとするものにもなりかねない。
この目標の妥当性について、「政府が審査・確認の上、関係審議会等において評価・検証を行う」とするが、あくまで原単位目標であれ総量目標であれ、排出を削減させる保証もなく、現状を上回らなければよいとするものであるから、実質的な審査はなきに等しい。業界団体での参加も排除しておらず、鉄鋼連盟の参加などが取り沙汰されている。検証、目標達成の確認も従来の自主行動計画のままであり、自主行動計画参加の企業は排出枠の売却の場合のみ第三者機関の検証を必要とするもので、本試行による自己内で達成できる目標を設定し、野心的な目標を設定した上で削減が不足した時の「売買」は基本的に期待していないことを示唆したものである。自主行動計画の目標達成を助けるための"ノーキャップ&微トレード"のスキームが、排出量取引の試行との名のもとに行われようとしている。これではマネーゲームになりようがなく、排出削減とは無縁の証書ゲームというほかない。

フォローアップすべきは、本来の取引制度に不可欠の要素

 本試行の実施のフォローアップにおける項目・スケジュールとして掲げるところは、本試行の目的や目標設定などにみられる根本の欠陥を見直す意思がないことを示している。本試行を通して本来の取引制度導入を阻止しようとするものといわざるをえない。「技術とモノづくり」には削減義務化で省エネ投資の抜本強化を促すことこそが有効で、対策先送りは日本の「技術とモノづくり」の障害になりかねない。いずれ、わが国においても、国際社会に通用する取引制度の導入は不可避である。2012年までこのような試行的実施を前提としているが、大口排出企業が直接排出量について総量での削減目標を政府が設定して行う国際標準のキャップ&トレード型の取引制度の導入に不可欠の排出枠の設定や検証システムなどの実施のための議論や試行を先送りさせ、結局、米国も含めた国際社会の取引制度の流れのなかで日本に真に必要な試行の機会を失わせることになる。

科学の要請に応える中期目標の設定が出発点

 2009年末のCOP15(コペンハーゲン)での次期枠組み合意に貢献し、国内排出量取引制度の制度設計議論を加速するためにも、日本の中期目標の設定がまず必要である。中期目標設定には、英国の気候変動委員会のように専門的委員によって構成され、バリ合意のもとで、日本がどう役割分担をしていくのかが検討されるべき第一の課題である。政府は20日、来年のしかるべき時期に目標を決定するための「中期目標検討委員会」を地球温暖化問題に関する懇談会の下に設置した。しかし、検討事項に挙げられた日本版セクター別積み上げ方式は、産業構造や燃料転換に踏み込んでおらず、現状技術の最大普及を目指すものでもなく、それをもって中期目標を定められるものではない。中期目標の設定は透明なプロセスにおいて、その削減ポテンシャルの試算を公表し、あわせて科学からの要請を受け止め、対策実施によるエネルギーコストの削減額はもとより、省エネ産業や再生可能エネルギー産業による経済成長と雇用の拡大も総合して、2020年の目標を1990年比25〜40%削減の幅で、野心的に設定するべきである。

問い合わせ:気候ネットワーク TEL:090-2114-4551(浅岡携帯)
TEL:03-3263-9210、FAX:03-3263-9463(東京事務所)
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平成20年10月21日(火) 地球温暖化対策推進本部(第22回)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/081021/gijisidai.html

※1:「低炭素社会・日本」を目指して
http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/06/09speech.html
※2:低炭素社会づくり行動計画
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/080729/honbun.pdf
※3:排出量取引の国内統合市場の試行的実施について
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/2008/1021.pdf 以前こんな記事もありました。
●日経エコロジーに気候ネット浅岡氏インタビュー
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20080619/162858/
”しかし日本は、2013年以降の方向性がとても曖昧です。国の政策がどこへ行くのかが分からないと、企業は事業計画の軸を定めることができません。大きな投資を伴う案件などは、2013年頃のことを今考え始めても遅いくらいですよね。こうした状況は日本の産業界にとって極めて大きなマイナスです。”
”抵抗しているのが自主行動計画に固執している人たちです。日本は本当に島国なんだと思います。そして今は幕末に似ていて、産業界は昔ながらの考え方で、「攘夷だ、攘夷だ」と言っている。この人たちを変えるには政治が動くしかありません。”


 この件については、経済同友会の桜井正光代表幹事もすばらしく激烈な政府批判の発言をしています。

http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/pressconf/2008/081021a.html
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Q: 温暖化防止対策について、本日、国内排出量取引制度の試験的実施が始まった。企業の自主参加、削減目標の自主策定、過不足分の自主売買などが主な内容で、これから参加企業を募る。産業界にはまだ考え方に差があるようだが、改めてどう受け止めているか。

桜井:排出量取引については以前から述べている。一番大事なのは、意味ある排出「枠」設定の必要性がきちんと理解され、排出「枠」を設定しなくてはいけないという認識があって初めて、その「枠」通りの削減を達成するために、排出「量」の取引がひとつの有効な手段・方法となる。これが基本的に理解されなくてはいけない。そうでないと、量の過不足を取引するために枠が必要だ、というように、「トレード」のための「キャップ」になる。そうすると、排出「枠」の設定は、自主計画、すなわち自分で設定しても良い、ということになり、排出量取引の考え方に対する大きな間違いがある。排出枠(キャップ)を自主計画、自己申告で設定する方法で、本当に(排出)量の取引が必要となるのか。取引市場の活性化がどうして起きるのか。取引市場における問題点をどう見出すことができるのか。これらについて疑問を感じる。

キャップの設定に問題はあるが、とりあえず自己申告型の枠の設定で排出量取引市場を開設してみれば、枠の設定の重要さや、欲しいときに必要な排出量をいかに買うか、口座の設定はどうするのか、などのいろいろな問題が出てくるので、それらを通して十分ではないがシステム構築が進むことには意味がある。また、枠の設定の重要性も理解されてくると思うので、その面では期待するところもある。

(今回の試行は)自主参加型なので、参加するかどうかは企業の考え方によるが、各企業が、地球温暖化防止のために自社でどのくらいの排出枠を設定しなければいけないかをしっかりと考え、参加していただくことが望ましい。

排出「量」の取引のためでない本来の「枠」の設定について補足する。2050年には(全)世界で(温室効果ガスを)半減する、(中でも)先進国は70%以上、90%程度は削減しなければいけないという大きな目標がある。(そのためには)中間地点の2020年あるいは2025年に、先進国は40%程度の削減が必要である。それに従った国の(義務的削減)枠の設定があり、それをブレークダウンした企業の枠の設定がある。これが本来の排出「枠」ということだ。
Q: 排出量取引について、自主申告で取引が活性化するのか疑問を感じるとの発言があったが、自主申告では企業の削減幅が本来必要なレベルより少なくなりがちだという認識か。

桜井:自主申告であれば、(削減幅が)少なくなることは当たり前である。京都議定書で(決定した日本の温室効果ガス排出削減目標は)6%である。地球温暖化阻止のため(ポスト京都議定書)には、先述の通り、中期(目標)で先進国が約40%である。このふたつは、ほぼ同じ約10年という期間である。自主申告で通用するのは、今までの実績を考えれば、京都(議定書)の6%(レベル)前後であろう。それで本当に良いのか、ということである。
Q: 今回は試行だが、いずれ本格実施になったときには、誰かがキャップを掛けることが必要だということか。

桜井:そうだ。排出量取引を活かすためには、長期目標、中期目標をブレークダウンした数字が意味ある高いレベルの(削減)目標値になり、それにチャレンジするときに、一生懸命(削減を)行った(企業)はその結果(目標を)越えた分を(達成できなかった企業が)購入する、ということで、トレード・システムが活きてくる。しかし、自主的に作った低い目標で行けば、ほとんどの企業は達成するだろう。これでは売ろうとしても買い手がつかない。このようななかで炭素価格がついたとしても、かなり安くなるだろう。試行ではそれでも良いと思うが、排出量取引という手段を本当に有効に活用しようと思うのであれば、(国別目標を)ブレークダウンした義務的な(企業の)目標値が重要である。

以前から申し上げているが、私は排出量(取引)論者ではなく、義務的目標論者である。
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posted by おぐおぐ at 23:50 | TrackBack(0) | 排出枠/排出権取引 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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