2008年10月14日

赤祖父氏の「自然の温暖化がメイン」論

赤祖父氏の「自然の温暖化がメイン」論は原因究明に踏み込んでいないものです。

「正しく知る地球温暖化」赤祖父俊一誠文堂新光社

を購入して読んでみました。

 この本は、いろいろなグラフ、地理的な温暖化の現状再現シミュレーションと観測値との比較などを受けて、20世紀の北極圏の温暖化のかなりの部分はそれ以前からの200年間ほどの温暖化傾向の延長線上である、ということを主張している本です。

・1/6の根拠は何?

「気候学者の中には、自然変動の原因として火山活動、太陽自身のエネルギーの出力の変化、宇宙空間ガスの影響などを提唱してきた者があったが、IPCCのコンピュータの計算によると炭酸ガスの温室効果に比較してその効果は薄いとされている。これはまだ議論の段階であるが、問題は上述の程度の発言ではIPCCと報道に圧倒されてしまうことである。
 そこで、筆者はまだ究明されていない自然現象の原因について論じ、尽きない議論に巻き込まれることを避け、多くの専門科学雑誌や報告に発表された(すなわち、厳密な審査を受けた)数々のデータによって、小氷河期が実在したこと、そして現在はそれから回復中(すなわち温暖)である証拠を示す。これは一般の自然科学者の漠然とした発言と異なり、きわめて具体的な証拠を提出したことになる。
これが第四章の目的でもあり、この本の最も重要な目的である。筆者は、回復が1800年、それ以前から始まっており、しかも気温の上昇率は当時から現在まであまり変わっていない(直線的)ことを示す。…
 このように自然変動を同定し、現在進行中の温暖化からそれを差し引くことによって、人間活動による炭酸ガスによる温暖化率を推定した。そして現在の温暖化の6分の5が自然変動によるもの、すなわち炭酸ガスによる温室効果はわずか6分の1であることを証明した。」
(P.71)

 この1/6というのは、20世紀の100年間で0.6℃の昇温が観測されているが、19世紀も同様の昇温速度だったので人為的温暖化が効いているとしてもせいぜい0.1℃だろうというとても大雑把な提案のようです。

 (IPCC第三次報告書に示されていた)マンらによるホッケースティックの気温変動の記述が違っていた、温暖化はもっと以前から進んでいた自然現象ではないか、過去数百年間の自然の温暖化の原因を太陽とも、宇宙線を介した雲の変化とも特定はしていない(原因を示していないにも関わらず)、自然の変動が大半である、と確言しています。

 特に注意すべきなのは、マンらによるホッケースティック状の変動も、第4次報告書のより深堀りされた記述も、どちらも北半球の温度変化の過去データ分析なので、全球平均気温ではありません。
全球平均気温を示すためには南半球のこの千年紀の気温データが新たに必要です。
全球平均気温については、20世紀初頭19世紀後半からの過去100150年間余りの記録があるだけです。
(後日記:記憶で書いて失礼しました、グラフを再確認してみると19世紀後半も含んでいますね。なので、そもそも19世紀後半が気温が上昇を続けていた、という主張への第一の反論はこの時期の全球平均気温データが横ばいであったというIPCCのデータです。)

その注意をした上で反論を試みてみましょう。以前の記事でも紹介しましたが、類似の過去データ
http://www.aip.org/history/climate/xmillenia.htm
ipcc_6_10.png
を見ていただくと、1900年から温暖化が始まったという言い方もできますし、1800年から温暖化が始まったと言えるデータもある、という玉虫色の状況です。
 IPCCが紹介している気候モデル研究(図4.13)によれば、1975年以降の昇温の大半が人為的な影響であるとして、100年間で0.4,5℃の昇温となっています。一方、自然の要因分は0.1℃程度とわずかな寄与になっていますが、75年以降のの時期についてはマイナス側の寄与となっています。100年間について言えば、2/3以上が人為的な温室効果ガスの要因となっている、但し、それは一部自然の変動要因で後半下降側に変わったからであり、前半の昇温は自然のものということになります。つまりIPCCとしては、1800年ないし1900年から始まった昇温は、20世紀前半で「終わっている」という評価をしていると言えます。したがって、過去の小氷河期の原因もまた、太陽活動他の自然要因で説明できるはず、ただ過去データが足りないためシミュレーションには組み込めないという立場だと言えるでしょう。

 さて、これでは議論がかみ合いそうにありません。メカニズムが分からないため気候モデルに入っていない要因が、見積もれない自然の変動になっているに違いない(そしてそれが小氷河期である)、という赤祖父氏の主張は、気候モデルの研究者には反論不可能です。

 現在の所、
1.その分からない要因の19世紀&20世紀の実データ
2.19世紀の北半球の精度の高い過去気温データ
3.19世紀の南半球の精度の高い過去気温データ
 を調べようがないというところで不可知論になるというものでしょう。

 言いたくなるのは「あんたがその未知のメカニズムを提案してみせてよ」or「ほんとに19世紀の全球気温データが20世紀のデータと同じく直線的な上昇だったというのを確かめてみせてよ」というとこでしょうが赤祖父氏はやらないでしょう。2,3が課題として残っているということは赤祖父氏の後者の主張には根拠がないということそのものを意味しているのですが。

 なのでIPCCに関わる気候モデル家が、可能な限りの過去データを(恣意的にだろうがなんだろうが)使って19世紀の再現実験をやってみるしかないようです。
 過去200年間の自然要因の変動の中で、火山は再現可能でしょう。問題は太陽活動の程度ですが、こちらも数世紀前のものまでは出てきそうです。
南半球の影響については、なんらかの仮定をおくのでしょう。

そうやって、作ってみた結果は、・・・当然懐疑派からは、「気候モデルならパラメータをイジればなんでもやれるハズ」という批判が出てきて、たとえ整合性がある結果が出ていても受け入れられないでしょう。

 ということで、赤祖父氏の主張の前には千日手状況のような気もします。

 19世紀を仮にクリアしたとして、さらにもう数世紀過去まで遡って実証しろ、と言われれば実施不可能でしょう。

 とりあえず精度の比較的高いデータがある過去の期間(つまり20世紀)については、現状の気候モデルで各要因が適合する、というところまでで、モデルの詳細を確認した後、目を瞑ってもらえませんでしょうか。>懐疑派の方・CO2の温室効果を否定していない。

 どうしてCO2の温室効果が原因として無視できるのか、の根拠を示していません。(CO2の温室効果評価については自ら検討すらしていない)にもかかわらず、CO2による温暖化を否定している記述となっていて、主張の行き過ぎです。

 現在の温暖化の再現に気候モデル研究者たちが成功しているのなら、将来予測として前世紀よりも大幅な温暖化が予想されている、その将来の温暖化の問題にこそ対処すべきというのがIPCCの提唱なのですが、そのことの直接的な反論にはなっていません。


その他、気づいた点をならべておきます。

・地理分布を見るのなら、平年値で比較すべき

 論旨の一部が誤植のためにわけが分からなくなっています。
P.114に「NASAに最近20年ほどの温暖化の地理分布の観測結果を依頼した。」とあるのに、その図5.2(下)では、「観測による1966〜2005年までの気温変化の地理分布」とされている。おそらくは誤植で、1986〜2005年の観測なのでしょう。
一方図5.2(上)は同じNASAによる観測で1950〜1998年のグラフであり、仮に1966年からだと、10年程度移動させての50年間の変化量を比較していることになりますが、そうではなく、20世紀後半の50年間と最新の20年間を比較しているのでしょう。

 ここも使ったデータ自体の批判をしておくと、1998年というのは特に大規模なエルニーニョが現れた特異年であり、そのエルニーニョの特徴が地理的な分布に大きく現れているはずです、そのようなデータを使うのはそもそも比較の対象年が間違っており、もっと平年の50年間についてのデータを比較基準として用いるべきでしょう。


・新聞記事の批判はどうしても印象批判になるでしょう。

「北極圏では永久凍土が融け、家が崩壊しているというニュースがたびたび報じられているが、永久凍土(すなわち凍った土)の上に直接家を建て、暖房し床下の土が融けたためであって、炭酸ガスによるものではない。」P.25
 実際にはたとえばアラスカのシシマレフ島で起こっていると日本で報道されているのは、波による侵食が荒くなり、海岸が崩れているのでお墓も移さなければならないし海岸の住居も傾いている、という論点であって、赤祖父氏が主張しているような論点ばかりではない。
 そもそもお墓は暖房をしていないわけだし、「炭酸ガスによるものではない」とは根拠ゼロの断言で、自らが批判しているつもりの科学に政治を持ち込む断言を行っているもの。
 つまりニュースと言っても複数の論点があるから、一部否定をする赤祖父氏の論法に理があるように見えても、アラスカの気候変動の全体像を撃つものとは限らない。
 このあたりはマスコミの記述をめぐる印象批判だと思いますし、それはそれで意味のある批判でしょうが。


・グラフの理解?をしっかりしてよ

図4.13は赤祖父氏のグラフの読み方不足?で間違った解説をしています。(P.98)

4つのシミュレーションANTH NTRL SOLR VLCN
とありますが、ここでNTRLとは下のSOLRとVCLNをあわせたものを自然の変動要因として入力したことを意味しています。
 この図には示されていませんが、5つ目のシミュレーションのグラフが実はあって、それはANTHとNTRLを加算して、自然要因だけでも人為的要因(CO2温室効果)だけでもあまりあわないが、両方の要因を組み込むと濃い黒線によくフィットする、だから人為的要因の寄与はこの程度だ、とIPCCの解説者は説明しています。
 なのに、赤祖父氏は、
「そこで、太陽、火山活動の影響なしにコンピュータを走らせたものを自然変動(NTRL)と定義し、これも観測を再現できないとした。」
としています。
単なる誤記なのか、中身をまともに読んでいないで印象批判をしているものかは分かりませんが、ここのIPCC側の主張を理解されていないで、気候モデルの批判に走るのはちょっと筋違いのように思います。




コメント:
 懐疑派の論に従っても、これからどうすべきかの指針にはなりません。とにかく温暖化対策をするのを遅らせるために議論のための議論をしているように見えます。

 要は、これから先、どうなるか不明とされた自然の要因が、一層の温暖化をもたらすか寒冷化をもたらすかは、全く分からないのですが、これから必ず自然の寒冷化があるに違いない、と強硬に主張する人(丸山氏など)もいる一方で、200年続いてきた原因不明の温暖化が今起こっていることなのなら、あと100年続いてもおかしくはない(赤祖父氏は根拠なしですが)わけです。
どちらの懐疑派の方もCO2による温室効果がない、とは主張していないわけで、化石燃料をますます燃やし続けることが問題がある活動だと分かっているのだから、分かってる対応策から始めよう、とはどうしてならないの?というあたりが説得力のない点です。
posted by おぐおぐ at 15:47 | TrackBack(1) | 温暖化懐疑派・否定論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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Tracked: 2008-10-17 23:16
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