2008年01月06日

NASAハンセン博士のNHK番組での発言録

NHKの正月番組の一部を再紹介しておきます。
(再放送の予定があるようです。
<再放送>
総合 1月14日(祝・月)午後1:05〜2:05(近畿地方を除く)
BS1(ロングバージョン) 1月20日(日)午後7:10〜9:00(N中断あり)
ということで、1/20のPM7:10〜8:00がこの第1部です。 )


●1月2日(水)22:10-23:00、(及び 3日(木)10:10-11:00) いずれも NHK衛星第一
BS特集 未来への提言スペシャル「地球温暖化に挑む」。
 ”人類最大の課題「地球温暖化」。ノーベル平和賞を受賞した国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、ことし報告書をまとめ、世界の科学者の総意として、温暖化の原因は人間の活動が生み出す温室効果ガスだとほぼ断定。このまま何の対策も講じないでいると、21世紀末、気温は最大で6.4度も上昇し、生態系に大打撃が生じると警告した。日本で洞爺湖サミットが開かれる2008年の年始にあたり、「未来への提言」のスペシャルバージョンとして、地球温暖化に挑む世界のキーパーソンからのメッセージを特集する。

[第一部] ジェームス・ハンセン博士。
 NASAゴダード宇宙研究所の所長を務めるハンセン博士は、1980年代から地球温暖化を指摘してきた温暖化研究の権威的存在。北極海の氷の面積がこの夏、過去最小となるなど、IPCCの報告書のペースよりも温暖化が加速しているとして警鐘を鳴らしている。温暖化研究の最新の状況や、地球の危機にどう立ち向かうべきか、じっくりと聞く。【聞き手】毛利衛。”

 ハンセンへのインタビューは、グリーンランドと西南極氷床のダイナミックな崩壊というティッピングポイントの警告を紹介する良いものだったとはいえます。

 さらにNASAのこれまでの研究に焦点を当てた、詳しい紹介になっています。ハンセンを取り上げて特集を作るとはさすがNHKさん、論争のポイントを押さえていますね。
 ただ温暖化対策としてすべきことについての議論では、残念ながら、ハンセンがピークオイル時代を認識していることを紹介しそこねていました(もしピークオイル問題がなかったならハンセンの提案する石炭モラトリアム対策だけでは十分な対策にならないことはすぐわかるでしょうに)。
 結果として、視聴者にとってはたんなる科学者の微温的な対策提言として受け取られたのではないか、ということが心配です。ピークオイル問題というのがあるので、石油の使いすぎについては心配しすぎなくても良いから、石炭を先回りして規制する合意を作り上げるのだ、というのが彼の主張の流れなんですよ。
 この点ではマスコミのピークオイル嫌悪症が、世論をミスリードする問題になりつつあるのではないでしょうか。

(注:現在YouTubeからは削除されています。)

以下、部分的なテープ起しを貼り付けておきます。

−−−
毛利
 温暖化の現状の理解をどう捉えていますか。

ハンセン
「私は地球の危機、非常事態と考えています。
今起きているごとはあまり目に見えないので、理解しにくいかもしれませんが。
数十年前に比べて違う。
まだ大きな変化には見えないですが、大問題。
危険なのは、このままたまり続けると取り返しのつかない変化を起こしてしまうということ。」

毛利
 それは科学者のコミュニティで理解されていることでしょうか。

ハンセン
「本当に理解するには容易なことではありません。
深刻さを理解するためにはきわめて多くの情報が必要です。」

 最初は金星の大気を解析するための気候モデルから初めて、地球でも同じ現象が起きていることから研究を始めた。

 81年に最初のモデル発表をサイエンス誌に。
 88年、ハンセンの米連邦議会証言 30年後の予測が可能となっていた。

 その後、人為的温暖化が原因かどうかについて長く論争が続きました、が観測データの集積によって予測の精度が上がり、昨年IPCCは第4次報告書でほぼ断定しました。

ハンセン
「20年経った今、我々が予測したとおりに温暖化が起こっています。
時が経つにつれて証拠はますます増えています。」

NASAではアースオブザービングシステムで膨大なデータを集めています。

2300年までの温暖化予測に取り組んでいる。

2100年までの予測では、地球の平均気温は2.7℃、現在よりも上昇すると予測。

ハンセン
「私はよくこんな質問を受けます。長い時代、気候は大きくちがう。今の変化など小さいものではないですか。と
人間の文明が始まってから、まだ数千年しか経っていないのです。
氷河期のはざ間の安定した気候、海面も安定した中ではぐくんできた。
地球上の全ての生き物は、この気候に適応してきた。
過去の気候の大変動では90%の生物種が絶滅したこともあります。
地球の平均気温が、今よりわずか1℃から2℃上がっただけで全く違った惑星になり、多くの生物が絶滅してしまうでしょう。

 人間はどうにかしてこの大規模な気候変動を生き延びられるでしょう。でも他の多くの生物は死んでしまいます。そして生き残った人間も大きな被害を受けて、今よりずっと貧しくなってしまうでしょう。
 危機を回避するために残された時間はあまりありません。なぜなら、すでに大気中にたまっている温室効果ガスだけでもあと0.5度の気温上昇を引き起こしてしまうからです。これ以上の温暖化を抑えるためには、後数年以内に、これまでとは全く違った道を歩まなければならないのです。」ナレーション(また、南極大陸でも温暖化の新たな兆候が現れていました。南極大陸は、氷床と呼ばれる最大4000メートルのぶ厚い氷に覆われているため、内陸部は温暖化の影響を受けにくいと考えられてきました。
ところが昨年NASAが人工衛星画像を詳しく調べた結果、南極の西側の氷床で広い範囲で表面の雪が溶けるという異常事態が起きていたことが始めて明らかになりました。
広さ42万平方キロメートル、日本列島とほぼ同じ広さです。)

ハンセン
「ティッピングポイントとは、ある現象が突然、急激で大きな変化を起こす臨界点のことです。
 北極海の氷を例に説明しましょう。氷が溶けると海が露出します。海は黒い色なので、太陽光をより多く吸収します。すると海が暖まって、更に氷が溶けてしまいます。つまり、温暖化によって起こる現象がますます温暖化を進め、連鎖的でますます大規模な変化を起こしてしまうのです。
 このティッピングポイントが今実際に北極で起こっています。2007年、北極海の氷は30年前の半分しかなくなってしまいました。

 そして非常に深刻な事態を招くティッピングポイントが南極とグリーンランドの氷床で起こる可能性があります。我々が宇宙から観察した結果、これらの氷床は急速に変化する恐れがあります。
5年ほど前に打ち上げた、重力を測定するNASAの衛星によって、グリーンランドや南極の氷床の質量が高い精度で分かるようになりました。グリーンランドの氷床は、今、年間150立方キロメートルずつ減少しています。南極西部の氷床もほぼ同じ割合で減少しています。
 今はまだ大きな海面の上昇につながるような規模ではありません。しかし問題は、氷床が溶けるスピードが速くなり始めていることです。氷床が将来、大崩壊を起こす危険性があるのです。われわれは南極をさらに宇宙から観察していく必要があります。」

ナレーション(南極大陸の氷床は、地球上の淡水の70%を占める巨大な氷の塊です。氷床が海に張り出した部分を棚氷と言います。ハンセン博士は、温暖化が進んでティッピングポイントを超えると氷床が溶けて海に流れ出す可能性があると考えています。
気温が上がると氷床に水溜りができます。水溜りは氷に比べて色が濃いため、太陽熱を吸収して温まり穴を広げます。次第に氷は穴だらけとなりもっと黒くなります。また海の水温の上昇で、棚氷も下から薄くなっていきます。やがて棚氷が割れて海に落ちます。このとき氷床はティッピングポイントを超えます。蓋をしていた棚氷がなくなり、陸の巨大な氷が次々に崩れ落ちるのです。2002年、温暖化の影響と考えられる大規模な棚氷の崩壊が実際に南極で起こりました。NASAの衛星がその姿を捉えました。ラーセンBと呼ばれる、東京都の1.5倍ほどの広さの大きな棚氷が、わずか35日間で崩落したのです。このとき、7200億トンの氷が海に流れ出しました。)

ハンセン
「最初の変化は非常に小さいものです。しかしあるとき、突然大きな変化が起こり、氷床が大崩壊するのです。
いつ起こるか予測するのは非常に困難です。しかし、地球の過去の歴史を調べると、氷床の崩壊は何度も起きています。」


(氷床の崩壊は海面の水位に大きく影響します。陸地にあった氷が溶けることで、水位が上がるからです。
これは過去45万年前の気温と海面水位の変化です。気温と海面水位は、ほぼ同じような上下動をし、密接な関係があることが分かります。
ハンセン博士は、今から1万4千年前、最後の氷河期の終りにおきた大変動に注目しています。このとき大幅に気温が上昇するとともに、100年当たりで5メートルという急速な海面上昇が起きていたのです。)

ハンセン
「南極の巨大な氷床が崩壊した場合、海面水位が100年以内に1メートル以上、おそらく数メートルの急激な上昇を起こす可能性があります。大変危険です。世界の多くの都市は海沿いにあり、膨大な人口が暮らしているからです。
 私の考えでは、このまま二酸化炭素を出し続ければ、海面水位の大幅な上昇は避けられません。」


(しかし、海面が100年以内に、数メートル上昇する可能性については、世界の科学者の間でも議論が分かれています。国連IPCCは今世紀末までの海面上昇を、18センチから59センチと予測しています。しかし、報告書には但し書きがつけられています。「氷床についての研究がまだ限られているため、この予測値には、将来における急速でダイナミックな氷の流れは考慮していない。」)

毛利
 海水の上昇に関して、今の話を聞くと、もっともっと、非常に危険なように聞こえるんですが、具体的にいうとどういうことですか。

ハンセン
「たしかに一般の人にはわかりにくいですね。IPCCが発表している海面水位上昇の予測値は、主に海水が温暖化で温まることによって体積が膨張することの影響を元に計算しています。また、山岳氷河が溶けていることも考慮しました。しかし、IPCCは海面水位の大きな上昇を引き起こす、南極とグリーンランドの氷床崩壊の影響を含めていないのです。というのも、氷床の崩壊は突然起こるため、きわめて予測が難しいからです。しかし、氷床の崩壊が起こるのを我々は許すわけにはいきません。もしティッピングポイントを超えたら、元に戻すことは不可能です。気候は人類のコントロールを超え大変な被害を引き起こします。

 残念ながらこの温暖化の問題に関しては、慎重に研究し、議論し、98%確実と答えを出してからでは遅いのです。あと10年議論しようというような時間はないのです。数年以内に行動を起こさなければなりません。過去の地球の歴史を見れば、現在よりもあと1度高い気温になったときに、海面水位が大きく上昇し始めていることを忘れてはならないのです。」


 この後、話は一転して、ブッシュ政権による発言の検閲問題に移ります。

 各地を講演して啓発活動にまわっている中では、あと2,3年で急増している石炭火力発電所の建設を中止させなければならない(少なくともCCSがついていないものは)という提言をして回っています。

ハンセン
「残念ながらこの技術はまだ実用化されていません。あと10年くらいは掛かるでしょう。その間は省エネと再生可能エネルギーの開発にシフトすることで乗り切るべきです。そうすれば、CCSが実用化するまでのあと10年から20年分のエネルギーを賄うことができるのです。」

(石炭話続きますが略)


(最後にハンセン博士に地球温暖化を食い止めるために最も大切なキーワードを書いてもらいました。)

ハンセン
「キーワードは石炭です。温暖化問題解決の大きな鍵です。なぜなら、これから大気中に排出されていく二酸化炭素の大部分が石炭から出るものだからです。
 私たちはもう、化石燃料をどんどん燃やし続けるような暮らしはできません。
 現在の世界からみんなで抜け出し、二酸化炭素を出さない未来の世界へ行くための物語を見つけなければなりません。
そしてそれを社会に向けて語っていくのです。」

 ライブアースの会場でのハンセン博士の語りかけがエンディングでした。

−−−

ハンセン関連の過去記事(新着順):
ワシントンポスト紙でビル・マッキベンが350ppmを力説

そして二人は一緒に笑った

ハンセンが吠え、レントン、ラプレーが応える

暴走温室効果、帰還不能地点、ティッピングポイント


「不都合な真実」の6メートル海面上昇予測はトンデモ説か?


ニュース短信その8

ハンセンの警告

ニュース短信その2

討論会の感想

ジム・ハンセンの説くOver the Rainbow戦略その1

雪だるまはころがり始めているか−ティッピングポイント問題


他のブログでの記述
サステナ・ラボ:物騒な挨拶
(石原都知事がハンセンの話を年頭挨拶で紹介したとのこと。)
posted by おぐおぐ at 12:12 | TrackBack(3) | 気候カタストロフィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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