2007年08月06日

「不都合な真実」の6メートル海面上昇予測はトンデモ説か?

 僕はこれまで、アル・ゴアの映画「不都合な真実」の中の海面上昇予測について、数千年先にそれくらい上がるという問題であり、切迫した脅威として強調するのはいかがなものか(よくない)と思ってきていました。が、それは考え直す必要がありそうです。


JanJan記事「地球温暖化のウソ・マコト:原発推進でよいのか」 2007/07/14
http://www.news.janjan.jp/world/0707/0707078546/1.php
のコメント欄で市民記者の南部さんとやり取りをした中で、南極の氷床関係の過去記事を探しましたので以下にまとめておきます。


・以前、「南極とグリーンランドの氷床の融け方明らかに」
http://sgw1.seesaa.net/article/127880206.htmlの中で紹介しましたが、人工衛星から氷の重量を計測している別のデータでは、南極の氷の重量は、特に WAIS(西南極氷床、グリーンランドと同程度の面積の部分)の部分で減少しているということです。


 2月に発表されたIPCCの第4次報告書(WG1)
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/ipcc_ar4_wg1_spm_Jpn_rev.pdf
によれば、南極の氷による海面上昇の寄与は、「力学的な氷の減少」による寄与が主な原因と結論付けられています。

 ここの「力学的な氷の減少」とは、「グリーンランドと南極の内陸の氷床を源とする氷河の中には、流出速度が増加したものがあり、氷床内部から氷を流出させている。それに対応する氷床減少量の増加は、しばしば、氷棚の縮小、減少または消失、或いは海上に浮かぶ氷河舌の損失に引き続いて起こった。」という過程のことでしょう。

 このプロセスは第4次報告書の中では、表SPM-3でも「(急速な氷の流れの力学的な変化を除く)」としており、海面水位上昇の予測の中には組み込まれていません。


・先日、NASAのジェームズ・ハンセンがニューサイエンティスト誌の中で、科学者はもっとフランクに自分たちが抱いている懸念を公表すべきだ、として、西南極の氷床の崩壊の恐れについて一文を書いています。
Huge sea level rises are coming -- unless we act now
http://environment.newscientist.com/channel/earth/mg19526141.600-huge-sea-level-rises-are-coming--unless-we-act-now.html
 ハンセンが書いているのは、WAIS(西南極氷床)を南極全体とは別の一つの塊として見るべきだ、という考え方です。
WAISというのは、北は南極半島につながり、南はロス海とウェッデル海の間の地峡ではさまれた区画だといえます。たまたま面積的にも蓄積している氷の量でもグリーンランドと同じ規模であり、そこの氷が全部融ける(あるいは海に浮かぶ)と海面を6メートル(グリーンランドと同程度)上昇させることで注目されています。
仮に南極全体の氷が融けると60メートル級の海面上昇になるわけですから、南極全体の氷とは別の議論となっています。

 なぜこの地域が注目されるかと言えばまさしく、ロス海とウェッデル海の間に挟まれている部分があるからです、この場所の氷は、海面下の標高の岩の上に乗っかっているため下部からの海水の浸入を許しやすく不安定になりやすいと言われています。



 IPCCのメジャーな報告書(AR4)の限界とは、(より狭い分野に限定してアップデートを頻繁にすべきだとハンセンも書いているように)そこに盛り込まれているのが1年ほど前の締め切り以前に書かれた論文のみであるため、最新の知見ではないことです。

 今年に入ってからマスコミで大々的に取り上げられた南極の氷の融け方/氷河の流れ方についての研究発表の多くは、IPCCの第4次報告書の中では時間切れで評価されなかった新たな知見です。


・以前「今世紀末に氷河融解で海面数メートル上昇「か??」」
http://sgw1.seesaa.net/article/127880218.htmlの中でも紹介しましたが、サイエンス誌で3月に特集を組んでいました。


 最近では、今年2月の第一作業部会報告書発表日頃から最近だけでも以下のような4種の関連記事があるかと思います。

・1/28:Experts split over climate danger to Antarctica
http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,2000533,00.html
”'From what I hear of the report, it seems misleading to suggest nothing much is going to happen to the Antarctic over the coming decades,' said Dr Chris Rapley, director of the British Antarctic Survey.
'Some parts of the continents are already losing substantial amounts of ice and others will in future - and that will have direct consequences for the rest of the planet.'”


・2/16:Chain of Cascading Lakes Discovered Under Antarctica
http://news.nationalgeographic.com/news/2007/02/070216-antarctic-lakes.html
Scientists sound alarm over melting Antarctic ice sheets
http://www.climateark.org/shared/reader/welcome.aspx?linkid=69410
南極氷床の下に流れ込み川や湖となっている水についての研究が進んでいる。氷床が動く際の潤滑作用を持つため、動きを決める要因となる。
”"We've found that there are substantial subglacial lakes under ice that's moving a couple of metres per day. It's really ripping along. It's the fast-moving ice that determines how the ice sheet responds to climate change on a short timescale," said Robert Bindschadler, a Nasa scientist at the Goddard Space Flight Centre in Maryland, one of the study's co-authors.”


・Buried Lakes Send Antarctica's Ice Slipping Faster Into the Sea, Study Shows
http://news.nationalgeographic.com/news/2007/02/070221-antarctica-lakes.html
Antarctic water world uncovered
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/6364577.stm
南極の東側の氷床(EAIS)のリカバリー氷河の下にもまた、湖が発見された。
現在、ICESatとRADARSATの人工衛星からの観測で140の湖が発見されている。


・In Antarctica, proof that action on climate change is more urgent than ever
http://www.climateark.org/shared/reader/welcome.aspx?linkid=77429
南極半島の300個の氷河を調べたところ、10年間で12%の流出速度増加が見られた。
”Using radar images taken between 1993 and 2003, scientists at the British Antarctic Survey in Cambridge mapped a 12 per cent increase in the average rate of movement of more than 300 glaciers in the Antarctic Peninsula over the period.
The findings will raise concerns within the UN's Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) which, earlier this year, downplayed the so-called "dynamic" nature of melting glaciers - when rising temperatures cause them to break up quickly rather than simply melt slowly.”

Antarctic glaciers 'flow faster'
http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/6727543.stm



 ハンセンらが懸念しているのはこの「力学的な氷の減少」がグリーンランドと西南極氷床で加速することで(従来の2000年先と言わず)数百年あるいは百年以内に6メートル規模の海面水位上昇が起こりうるということです。

 IPCCの報告書の中では「急速な氷の流れの力学的な変化」の問題が存在していないなどとはさらさら書いておらず、(現状ではまだ予測できるほど調べられていないのでそのリスクの確率は不明だとしても)懸念であることを述べているのだと思います。

IPCCAR4WG1SPM、20ページ末尾の段落にはこうあります。
「現在のモデルには含まれていないものの、最近の観測結果が示唆する氷河に関係した力学的な過程によって、昇温によって氷床の脆弱性は増加し、将来の海面水位上昇がもたらされる可能性がある。しかし、これらの過程についての理解は限られており、その規模についての一致した見解は得られていない。{4.6、10.7}」

ということで、ここの「一致」してはいない見解の中にハンセンの述べた主張が含まれているのでしょう。

 新しい知見が同じ危機的な方向を向いているときに、科学者の(少し昔の)コンセンサスであるIPCC第4次報告書でコンセンサスが得られていない、ということのみを強調するのもリスクの過少評価につながるものだと言えます。

ということで、
「今世紀末に氷河融解で海面数メートル上昇「か??」」の中で、「か??」を付けるべきと書いたときと比べて、「?」の数を減らしおかないといけないかな、と思うしだいです。

 そして正直に言って、このようなレベルの海面上昇に対する適応策というのは存在しないと言わざるをえません。


ブログで収集!ブログ・ヘッドライン Blog-Headline 氷が解け、島が沈む海面上昇
posted by おぐおぐ at 09:31 | TrackBack(2) | 気候カタストロフィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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Excerpt: 「氷が解け、島が沈む海面上昇」に関するブロガーの意見で、みんなの参考になりそうなブログ記事を集めています。自薦による投稿も受け付けているので、オリジナルな意見のブログ記事があったら、どしどし投稿してく..
Weblog: ブログ意見集(投稿募集中)by Good↑or Bad↓
Tracked: 2007-10-14 22:12

温暖化による海面上昇の数値を考える
Excerpt: ゴアが発表した「不都合な真実」では「温暖化によって6メートル海面上昇する」と警告した。まさかそんな事は無い。IPCCだって常に「1m未満の上昇だ」と発表しているし。ゴアの言っている数値は単に環境発展途..
Weblog: 紺碧の世界に夜露死苦
Tracked: 2008-09-15 21:51
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