2006年05月13日

風力発電機輸出国デンマークの経験

一つ前の風力発電の記事に対して、ながくらくにおさんからコメントをいただきました。

>風力発電設備の製造のためにエネルギーロス、LCAとしての環境負荷の計算をするべきでしょう。

とのことでしたが、風力発電はLCAでも一番環境負荷が少ない、と普通はみなされていると思っていたので意外でした。

じゃあ検証できるのは他国の実績ということになりますが、風力発電が自立産業とみなされる域に達しているのはデンマークでしょう。
電力供給量の20%を風力発電で賄っているとされていますし、風力発電機の生産能力が国内の需要をはるかに上回り、国外へ風力タービンを輸出することで世界の風力開発需要のかなりを賄っている輸出国です。

最終的なLCAの評価に行き着くために、このデンマークのエネルギー需要のどれくらいを風力タービン生産工場が使っているか、ということを調べていけるかどうか試してみましょう。


1.デンマークの風力発電稼働率実績
まずはデンマーク国内の風力発電の発電実績を見てみます。

デンマークの風力発電業界であるDanish Wind Industry Association (DWIA) の中のCapacity i Denmark  によると、容量は3118.5MW(2004年)。

同じくElectricity production  によると、発電電力量は6582.8GWh(2004年)です。

ここで1年=265*24=8760hなので。

稼働利用率=実際の発電電力量(GWh)/(容量(GW換算)×年間の総時間数(h))
=6582.8/(3118.5/1000*8760)
=24.1%となります。

実際には保守時間で食われる不稼働時間も含めますが、主に風が吹かない日があることで低い目の稼働率となっています、それでも前回書いた25%という数字がまあ当てはまるかと。


2.エネルギー収支比についての業界の言い分次に同じホームページにあった業界側の宣伝文句を並べておきます。良い事ばかり書いてありますね。

−−−
「知ってましたか?」 より

風力発電と経済
知ってましたか…デンマークの風力産業は2万人の職を作っていることを
 …デンマークの風力産業は世界最大であることを
 …デンマークの工場で生産されたタービンの90%が国外へ販売されていることを
 …風力発電は競争力があることを
 …風力産業の成長予測は、中国経済の成長予測よりも大きいことを

風力発電とエネルギー
 …風に含まれるエネルギーは人間の24時間の電力消費サイクルにわりと適合していることを
 …風力発電はデンマークの電力消費の約20%を賄っており、2008年には25%を賄うだろうことを
 …風力エネルギーのポテンシャルの内のわずかな部分だけを利用していることを
 …風況の良い土地に建てられた2kW級の風力タービン1台で約2000軒の住宅の電力消費を賄えることを

風力タービンと人々
 …風力タービンはデンマークでは人気があることを
 …デンマークのタービンの半数は地域風力タービン協同組合が所有していることを

風力タービンと自然
 …風力タービンからの音は通常の会話の騒音レベルと同じであることを
 …鳥は風力タービンを通り抜けることを
 …洋上の施設は魚の種類を増やすことを

風力タービンと風景
 …風力タービンは周辺に最低限の影響しかあたえないことを
 …一台の風力タービンはウインドファーム内の土地面積の1%以下しか使わないことを
 …風力タービンと風車が過去800年間以上にわたって北欧の自然な風景の一部であったことを

風力タービンと環境
 …風力タービンがCO2排出量を削減することを
 …その寿命の間に、生産・保守・廃棄に使われるエネルギーの80倍のエネルギーを供給できることを
−−−

つまりEPR(エネルギー収支比)は80と非常に高いということを主張しています。一般にLCA(ライフサイクルアセスメント)でCO2の排出量が少ない=EPRが高いということがいえるはずです。

通常の発電システムではEPRが数十にもなるものと言えば、中小水力発電くらいしかありません。

ちなみに、LCAとの関連で有名な電力中央研究所の内山氏が91年に出している(つまり時代遅れの)「発電プラントのエネルギー収支分析」という論文 においては、風力発電のEPRは10程度と評価されています。
当然ながら当時は2千kW級の商用機はまだ登場していませんでしたから現在の商用機ではEPRが10ではなくて80になっても不思議ではないと言えます。

とはいえ「輸送」がこの中に入っていないのは意味深長です。木材輸送にかかわる排出CO2の量、ウッドマイレージCO2についてはウッドマイルズ研究会 というところで検討していますが、そこの検討結果に照らしてみれば、地球の裏側から、といった遠距離輸送の環境負荷は見過ごしにできない比率です。

実際にはいろいろ仮定を置いて計算するので、輸送距離によってや輸送手段で大きな違いが出てくるはずですが、この風力タービンについての検討では、輸出国の業界団体としてデメリットとみなされる遠距離輸送の問題をわざと省略している可能性は高いです。

結論として、風力発電は地産地消方式で、ということもエネルギー収支からすると望ましいあり方だと言えるでしょう。


3.デンマークのCO2排出量の推移

 気候変動枠組み条約事務局に提出した国別報告書のデータより
Table 7. Total anthropogenic CO2 emissions, excluding land use, land-use change and forestry,
1990 and 1997.2003
http://unfccc.int/resource/docs/2005/sbi/eng/17.pdf#page=17
単位Gg=10^9g=10^6kg=千トン

    90年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 90年比
Denmark 54220 65658 61575 58753 54434 56023 55656 60754 12%増加
といった程度の排出量となっています。

ここで比較のものさしを持ってくると、日本では例えば「50万キロワットの発電所2基」の石炭火力発電所が動けば、「排出するCO2は年間582万トン」と新聞で報道されています。(ブログ『チラシの裏の幻視録』:温暖化対策で石炭火力計画撤回 より)

デンマークのCO2排出がすべてこのレベルの石炭火力によるものだとみなせば、90年から03年に掛けてはおおむね、10基程度の100万kW級火力発電所が動いている状況に相当します。

それとは並行して、(燃料にかかる費用もなしに)すでに石炭火力3/4基〜1基程度分の電力を賄えるまで拡大してきたのがデンマーク国内の風力発電施設ということになります。
しかも97年以降のその間、国内の工場では、継続して国内向けの9倍もの風力タービンを輸出用に生産しつづけてきた、という状況です。
ですから風力タービンの生産のためだけにエネルギーを使いすぎるとか、他に実際に使えるエネルギーが無くなってしまうというエネルギー収支の観点からの心配は現実には杞憂であるといえるでしょう。

(後日もう少しちゃんとした評価に直しましょう。まずはこんなところで。)

Wikipedia:風力発電
は、よくまとまっているようですね。
posted by おぐおぐ at 15:35| 再生可能エネルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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