2006年01月31日

雪だるまはころがり始めているか−ティッピングポイント問題

ティッピングポイントという言葉の当初の語源については「なぜ私たちは温暖化を否認するのか(その3)」 の末尾の本を参照してください。ですが、最近は社会学的な変動や感染現象の爆発点としてではなく、むしろクリティカルポイント(臨界点)の意味に近い物理的なしきい値として、この言葉が使われ始めているようです。

(ちなみに、アル・ゴアの有名な本の表題「Earth in the balance(直訳:瀬戸際にある地球)」は天秤ばかりがバランスしている状態を示したものですが、テイップとは天秤のバランスが崩れた状態、つまり瀬戸際を越えた点を表すといった意味があるのでしょう。)


さて、ラブロックの温暖化もう手遅れ説 に始まったティッピングポイントの話題を英国南極調査隊のChris Rapleyと、英国のサッチャー元首相に温暖化を脅威と認識させた当時の顧問Crispin Tickell卿が続けました。
SCOTSMAN:Nightmare vision of a world 200 years on
”ONE of Britain's leading environmentalists will today sound a doomsday warning to the world: humanity's very existence is under threat from climate change and, even if we survive, the population will crash to about a third of its current level.”


そしてこの話題は大西洋を越えて、ワシントンポスト紙がNASAのジェームズ・ハンセンの発言検閲問題ともつなげて紹介しました。
これによって欧米マスコミの認定でも、長期気温目標をどうするべきかについての根拠は(不可逆的な悪影響)タイプ2の問題群に焦点が当てられるようになった(回避すべき被害についての最近のまとめ を参照)と言えます。

ワシントンポスト:Debate on Climate Shifts to Issue of Irreparable Change「気候に関する論争は不可逆的な変化へと移った」
Some Experts on Global Warming Foresee 'Tipping Point' When It Is Too Late to Act
何人かの地球温暖化の専門家は行動が手遅れになる「ティッピングポイント」を予測
By Juliet Eilperin
Washington Post Staff Writer
Sunday, January 29, 2006; Page A01
というものです。以下に部分訳を示します。−−−ここから
ほとんどの科学者は人間活動が地球を暖かくしていることに同意しており、今や、気候変動があまりに急激になり、数十年以内に人類がこのトレンドを逆転させるのに手遅れになるのかどうか、に論争のテーマは移っている。
この”ティッピングポイント”のシナリオは米国内外の多くの著名な研究者の時間を奪い始めている、なぜなら、国々がどれほど急激に温室効果ガス排出を減らす必要があるかを決めるのがその答えだからだ。
科学者たちはいつそのような臨界が起るのか不確かなままであるが、多くは政策決定者が地球規模の二酸化炭素輩出を今後50年間で半分に削減しなければ、不可逆的な変化への引き金を引くリスクがあると語っている。

科学者たちが特に心配しており(その期限は論争の的だが)差し迫っている可能性があるとしている事象が3つある。
30年間で世界の漁獲高に悪影響を与えるサンゴの白化現象の広がりと、
傾向を逆転させるためには数万年以上もかかるだろう海面の劇的な上昇と、
北欧の温暖な気温を維持している海洋循環の200年以内のシャットダウンだ。

地球が研究者の予測以上に速く温暖化しつつあることから、この論争は熱を帯びている。NASAのゴダード宇宙研究所(GISS)のジェームズ・ハンセンは先週、2005年は1998年を抜いて史上最も暖かい年であったことを確認した。地球の平均気温は過去30年間で華氏1°F近く上昇しており、さらに今世紀中に4°F上昇することで”地球は実質的に違った惑星になる”とハンセンは語った。”これは順応できるようなものじゃない””あと10年ほども今のようなことを続けるわけにはいかない、何かをやらなきゃ。”と語った。

プリンストン大の地球科学と国際問題のマイケル・オッペンハイマー教授は環境NGO、環境防衛(ED)のアドバイザーもしているが、グリーンランドあるいは西南極氷床の崩壊に一番大きな危険があると語った。この両者をあわせれば地球上の淡水の20%も占める。もし両者が崩壊したなら、海面は数世紀の間に20フィート近くも上昇することになる。

グリーンランドと南極の氷床は全体としては中心部での降雪のために質量が増加しているが、その周辺部では氷を失いつつある。これは科学者が未来の崩壊率を過小評価していたことを示すとオッペンハイマーは語った。
グリーンランドの現在の正味の氷の喪失は、年率0.008インチの海面上昇をもたらしているという。

氷床の崩壊の影響は「ばく大だ」と彼は語る。「一旦氷床の片方をなくしてしまえば、それらを元に戻すには何千年以上も掛かるか永遠にできない。」

昨年、英国政府は、ティッピングポイントのいくつかを検証する科学シンポジウム"Avoiding Dangerous Climate Change,"を主催した。この会議をまとめた本は火曜日に出版される予定だが、”今世紀中の予測範囲内の”地球の平均気温が華氏5°F以上になればこの二つの氷床の崩壊はよりありそうだとしている。
(後日記:ブレア首相はこの本の序文に”the risks of climate change may well be greater than we thought.”とコメントを残しているとのこと。Blair: Global warming is advancing))
この報告書は1.8°Fの昇温はカリブ海や東南アジアの魚類の繁殖に欠かせない「広範なサンゴの白化につながるだろう」と結論付けている。海水温度が上昇しすぎるとサンゴと共生している褐虫藻が逃げ出し、白く見えるようになるのだ。この白化が一週間以上長く続けば栄養が足りなくなってサンゴは死んでしまう。
昨年秋にはテキサスからトリニダードに渡る地域で広範な白化現象が起り、浅瀬のサンゴが死んだ。それは一つには海洋の温度が平年の月最高水温よりも2°F上昇したためだ。

多くの科学者はまた、暖かい海洋表面水を北欧まで運び深層海流が逆に南に流れている、大西洋の熱塩循環の崩壊についても心配している。
ドイツのポツダム気候影響研究所のハンス・ヨアキム・シェレンハーバーはいつ気候変動がこの「コンベヤーベルト」を撹乱するのかを決めるために複数のコンピューターモデルを計算させた。そのうちの一つでは、すでにそれは30年前に弱くなっているはずという。これらの計算結果によると200年以内に海流が崩壊する確率は50%あるという。

ブッシュ大統領の主席科学アドバイザー、ジョン・マーバーガー3世のように、いつ急激な地球温暖化が起るかの不確実性はまだ大きいと強調する科学者もいる。

「危険な気候変動とはなにかを規定する合意はない。」とマーバーガーは語り「米国政府は毎年20億ドルを気候変動の疑問を解明する研究に費やしている。」と語った。「このようなことは起りうるが、リスクのレベルを定量化するための十分な情報を持っていない。」

このティッピングポイントの論争は、米国政府内に対立を巻き起こした。ハンセンはNASAの政治任命上級官が彼の見解を公表することをブロックしようとした、と語った。…以下、1ページ分を略。

…(スタンフォード大の気候学者)シュナイダーは「キリバツの人びとにとってティッピングポイントはすでに来ている。彼らに関する限りは、もう傾きはじめているが、世界に対する経済的な影響力を持っていないだけだ。」と語った。
−−−ここまで。

ワシントンポスト紙の記事は
UPI: Global warming soon irreversible
でも紹介されています。


この記事へのコメント

Posted by rita at 2006-01-31 09:53:30
こんにちは。
東京はいかがでしたか?報告を楽しみにしています。

まず、坂道を転がり出したのに気がつくかどうか。
そして、転がり出したのに気がついた時、どうするのか。
転がり出したことに気がついてはいても、どうしたらいいのかわからない。
自分が原因のひとつであるということがわからない。
しかし、「転がり出して惰性がついてしまえば、元に戻すことは容易ではない」とか、「この坂の先に大きな崖がある」と警告するだけでは、行動に結びつかないような気がします。
ひとりひとりを行動に駆り立てるにはどうしたらいいんでしょうね。

Posted by SGW at 2006-01-31 10:32:31
ritaさんどうも。東京はまだまだ先の話です。
先週の土曜日には僕のいる県で温暖化のフォーラムがあり、東大の住明正教授が基調講演をしていたのですが、急激な気候変動とかティッピングポイントの話題は一言も出しませんでした。
日本国内でも米国同様、国として危機感をあおらせたくないのか、科学者の保守的な判断があるのかもしれません。

 ここの表題もちょっと保守的すぎたかもしれません、雪だるまはもうコロコロ坂を転がっていて、それが加速するか減速するのかをふもとからポケッと眺めて観測が不十分だ、とか言っているのが現状なんでしょう。

Posted by SGW at 2006-01-31 11:35:13
 またまた、「偽りの希望」の話に戻ります。

笑われるのは承知の上ですが、「月面へ進出してクリーン核融合を??」に出てくる話に僕自身当時はかなり希望を抱いていました。月までは行くようにならなくても別の3He生成反応が使えるようになるだろう、とかね。

もっと現実性があるから、これをやれば問題を先送りできるんだ、という、説得力があるように見える「偽りの希望」を政治が提案することができれば、その政党はその企画を実行する力を持てるでしょう。各国民のもつ絶望をそのまま放っておくのはどの国の政府にもできないことですから。
CCS(炭素の回収・貯蔵)も実行してみれば金食い虫になることは目に見えていますから、それに金をつぎ込むことによって経済成長が鈍化して石油消費も減ることが期待できます。
太陽電池がどんどん安価になって普及する、というのもある人びとにとっては「偽りの希望」といえる過大な期待を及ぼしているでしょう。

ですから、環境派ないしNGOないし緑の党といったところの側も、たとえ結果的には「偽りの」ものであったとしても自分たちの考える希望を形作ることこそが一番優先課題としてするべきことでしょう。
前提条件がなにやらどんどん難しくなってきているのはその通りですが。
 ritaさんの「オーストラリア楽農パラダイス」の本はとてもよかったです。パーマカルチャーの意味についてはじめてちゃんとした解説を読んだ気になりました。

 ちなみに最近もこの月の話はリバイバルしているようです。
【モスクワ27日時事】ヘリウム3採掘へ月面基地計画=未来エネルギー源確保狙う−ロシア
27日付のロシア紙イズベスチヤは、ロシアが月に大量に存在する将来のエネルギー源、ヘリウム3を確保するため、2015年までに月面に恒久基地を建設し、20年から商業採掘することを計画していると報じた。宇宙開発企業エネルギア社のセバスチヤノフ社長が公表した。

Posted by rita at 2006-01-31 20:00:44
こんにちは。
拙著を読んでいただきありがとうございます。

英国ではエネルギーの下り坂を転がり出したことが科学サークルでもぼちぼち理解されているようです。
これから記事にまとめようと思っているところですが、27日付けの英国のタイムズ紙に「フォーサイト」という政府系のシンクタンクが50年後の交通に関する報告書を発表したそうです。
この報告書、石油減耗時代を予測し、これまでのように「好きな時に好きなように出かける」ことはできなくなる、交通手段として自転車が大きなウエートを占めるだろうと予測しています。
http://www.timesonline.co.uk/newspaper/0,,174-2011758,00.html


この手の報告書には以前アメリカで出たハーシュ報告書があります。
ぼちぼちと、政府関係も減耗時代という下り坂に気がつき始めたという徴候でしょうか。
さてはて、その認識がどう行動につながるのか。
posted by おぐおぐ at 16:59| 気候カタストロフィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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