2005年12月01日

「対策費用の経済学」への倫理学からの批判

●対策費用の経済学
 IPCCの第三次報告書においては、京都議定書を達成するために必要な費用は比較的少なくて、GDPの0.X%という、ほんのかけら分くらいだろうと想定されていました。

 IPCCのWG3報告書より「8.5 Aspects of International Emission Trading」 の表TS5.によれば、その評価はおおむね、9つの経済社会モデルにおいて、排出量取引を先進国間で行った場合、2010年のGDP比での損失は日本にとっては0.05〜0.52%の範囲であるとされています。
(GISPRIによる日本語の紹介では、質問7の後半数ページ分がこれを説明した箇所です。)

 とはいえ、これは米国が京都議定書から抜ける前の状態でしたから、大きな買い手である米国が抜けた第一約束期間については、排出枠価格がさらに下落することで日本が直接払うコストはさらに下がると想定されています。

(日本は排出権を買う側になるから、不平等条約を受け入れてしまったのだ、と嘆く御仁もいるようですが、自由貿易の理論に従えば買うほうも売るほうも貿易で利益を得るという理解こそが正しいのです。そもそも高度経済成長の時代から石油ショックの時期の数年間を除いて50年間近くも毎年貿易黒字を積み上げてきている日本が買い手に回らないで、どうしてまだ貿易黒字を貯蓄したいと思うのでしょうか。これは偏執狂の症状以外のなにものでもありません。)

 というあたりがこれまでの経済学に関する評価です。
 以下の「」部分は、ピーター・シンガー著「グローバリゼーションの倫理学」 よりの引用です。「京都議定書にもとづいた合意は、世界の気候に対する人間の活動の影響という問題を解決するものではない。それは現在生じている変化を遅らせるだけだろう。そのため、懐疑主義者の中には、合意を実行するためのコストに見合う結果はえられそうにもない、と議論している者もいる。」

 温暖化対策反対派が恐れているのは、実際には京都議定書そのものではなく、一旦京都議定書を受け入れると、将来は際限なく対策が強化されていってしまって、経済に破滅的な影響を与えることになる、といういわば産業界の新税恐怖症といった考えがあるのでしょう。

 実際に大気中CO2濃度450ppm安定化といった踏み込んだ削減を行う場合に起こりうる長期的な損失については、以下のような話を紹介しています。

「ロンボー(ル)グ自身が指摘しているように、京都議定書が非効率的に実施されるという最悪のシナリオにおいてさえ、「コストのために私たちが救貧院送りになるということはない」のである。それどころか彼によると…次のように主張することができる。「地球温暖化に際限なく対処するための全コストは、[経済]成長曲線をせいぜい一年ほど遅らせるのと変わりがないだろう。言い換えれば、2050年に享受するはずの繁栄を享受するために、私たちは2051年まで待たなければならなくなるということである。そのときには、世界の平均的な市民は現在の二倍豊かになっているだろう。」」
これはIPCCの統合報告書図7.4の左端の450ppmのケースに対応します。


●倫理学からの批判
 しかし、ピーター・シンガーは以下のように続けています。
 
「年率5%という割引率が意味するのは、今日100ドル失うことは、1年後に95ドル失うこと、二年後に90.25ドル失うこと等々と、同等であるとみなすことである。…海面が上昇し、有益な土地が40年後に水没するものと仮定しよう。5%の年次割引率の場合、100ドルの価値がある土地を永久的に水没させる洪水を防ぐことは、14.20ドルを費やす価値しかない。従って、一世紀後、もしくはそれ以上先に生じる損失は、実質上ゼロというところまで縮小する。」

「たしかに時が経つにつれ私たちの投資は価値を増し、そして私達はより豊かになるだろう。しかし、人命や絶滅危惧種を守るために支払うつもりの代価も、ちょうど同じように上昇するかもしれない。これらは、私たちの所得に比例してその価値が下落するテレビや皿洗い機といった消費財ではない。
 それらは、健康のようなもの、すなわち、私たちが豊かになればなるほど、それを保つために喜んでもっとお金を費やすようになるものなのである。苦痛や死、あるいは種の絶滅といった損失が、今後40年間に渡って生じないだろうという理由だけで、それらの価値が割り引いて考えられるとすれば、そのことに対する経済的な正当化ではなく、倫理的な正当化が必要であろう。」
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 この最後の「割引率の概念」批判は目からウロコが落ちるような論説です。
経済学者はこの二つの費用を区別できないのでしょう。
posted by おぐおぐ at 16:20| 温暖化の科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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