4.予防原則とノーリグレット対策
前記の実験が可能ではないため、各国政府が集まってできた締約国会議としては京都議定書の中で「不確実性を理由に対策を先送りしない」という予防原則と共に、「まずは後悔しない対策(ノーリグレット対策:追加的費用が少なく、他にも利点があって実行を説得しやすい対策)を優先して実施する」との論理に基づいて、政治交渉を受けて各国が容易に実施可能な目標値が決められたのだといえます。(現在日本が日本の6%削減目標がムリだムリだと騒ぎ出しているのは、京都議定書が決まってからの8年間の政策不在が原因です。Hard Landingの懸念を起こさせるToo Little, Too Lateの典型例といえます。)
このこともまた「京都議定書の交渉では政治的な決め方で目標が決められたのであって、IPCCの要請する科学的な目標には基づいておらず、京都議定書の平均5%の削減目標では効果が上らない(→だから目標を達成しても意味がないのでもう止めよう)、という京都議定書反対派の批判を許す原因になってしまっています。
この現状を京都議定書の次期枠組み交渉(ポスト京都)において変えられるかどうかが重要な国際交渉の分かれ目だと考えられます。
即ち、気候系を人類が適応できる速度で安定化させるための究極的な長期目標について政治的合意を作り上げ、その上でその究極的な長期目標に適合する形で次期以降の目標を決めていけるだろうかという問題です。
これが難しい場合は、京都議定書のと同じ、目前の短期目標を何度も交渉しなおして、政治的に受け入れ可能な近視眼的対策だけを行い続けることが予想されます。
そうすると、IPCCが推薦する規模の、長期的な対策の必要性とは一致しない対策が続くことが懸念されます。
(この項目5.京都議定書の次のステップは何だろう へつづく。)