(一つ前の記事、
「CO2の温室効果は飽和する?」の続きとしてお読みください。量が多すぎて、記事の更新が出来なくなりましたので、別記事として独立させておきます。)
以下に、沈思黙考さんとの以前のコメント欄でのやり取りを保存します。
●Posted by 沈思黙考 at 2008-07-28 04:30:29
はじめまして。
私は、懐疑論(温暖化の原因=分からない・・・
少なくとも人為的に排出されたCO2だとは考えられない)に
コミットしている者ですが、私とは異なるSGWさんの見解を伺ってみたくて投稿いたしました。
> 真空の宇宙空間に向かって熱を逃がすメカニズムは
> 放射以外にはありません。
「地球からの熱放射」・・・SGWさんご指摘の
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/dd/Atmospheric_Transmission_JA.png> 真空の宇宙空間に向かって熱を逃がすメカニズム
は、いわゆる「大気の窓」を通じてであって、
(SGW:後だしジャンケンの解説をさせてもらえれば、この引用されているグラフの右側の青い地球放射の成分は、地表面の固体液体から「大気の窓」を通じて直接宇宙空間に逃げ出している成分だけしか表示していません。総合的な熱のやり取りを示した下のグラフの中では40と、ほんの一部です。一方、温室効果ガスの寄与は、Emitted by Atmosphere=165です。)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B0%97%E3%81%AE%E7%AA%93温室効果ガスの吸収帯とは違いますよね。
帯域が違うということは、温室効果ガスによる放射そのものは、
大気圏を循環しているだけで、宇宙へは、ほぼ漏れ出していないと見なせませんか?
「大気の窓」を通じた放射=黒体輻射
が「地球からの熱放射」であって、温室効果ガスによる放射は
> 真空の宇宙空間に向かって熱を逃がすメカニズム
"そのもの" としては、無視できる程度なのではないでしょうか?
私が申しているのは、
> 一旦吸収されて分子の運動に変わったエネルギーは、
> 再びCO2の励起スペクトルの窓からふく射の形で
> 逃げ出す以外に逃げ場はないんだ
というご意見は、間違っているのではないか? ということです。
> 一旦吸収されて分子の運動に変わったエネルギーは、
> CO2の励起スペクトルの窓
ではなく、「黒体輻射」の形で「大気の窓」を通じて、
宇宙に逃げ出すのではないか? ということです。
繰り返しますと、各種熱運動に変換されたエネルギーが「黒体輻射」として、「大気の窓」を通じて宇宙に放射される・・・というのが、私の「地球からの熱放射」に対する見解です。
温室効果ガスによる放射は、概ね、自由エネルギーのより小さい熱運動のエネルギーに変換されることになる訳ですが、
CO2の濃度 << 水蒸気の濃度
を勘案すると、「黒体輻射」へのチャンネルの1つとしての
CO2の役割は小さいと考えている次第です。
●Posted by SGW at 2008-07-28 09:37:07
沈思黙考さん、どうもです。
「黒体」というのは、科学者が想定した仮想的な物体でして、考慮すべき赤外波長領域のあらゆる波長に渡って、単色ふく射率(=単色吸収率)が1となっている「モデル」物質です。
ということで、
>各種熱運動に変換されたエネルギーが「黒体輻射」として、
>「大気の窓」を通じて宇宙に放射される・・・というのが、
>私の「地球からの熱放射」に対する見解です。
という誰かが書いた文書にあるような「黒体ふく射をする物質」が現実に存在しているわけではありません。
黒体ふく射の何十%程度の(全波長に渡って積分させた)総合ふく射率をもつのが、個別の気体分子であったり、雲を構成する氷の固体があったり、地表の水の表面があったりで、それらからのすべてごっちゃに合わせた、波長によって強度がまちまちな(赤外)光が上下両方向に飛び交っているわけです。
「大気の窓」というのは、その中で特に水分子の特性に応じてできている吸収の少ない波長領域です。
地表面の固体液体から上向きに放射される赤外線はこの波長では宇宙空間まで届きやすいという特徴はあります。
んで、そのいわゆる「大気の窓」を効果的に塞いでしまうということで、微量な温室効果ガスの増加による影響が大きいということが言われています。この範疇に入る温室効果ガスは、フロンガス、代替フロンガスなどでして、CO2の温室効果の2万倍といった大きなGWPをもっている大きな要因が、これらのガスの吸収率が高い波長が「大気の窓」の波長と重なっているという問題です。
CO2についても15ミクロン当たりでこの大気の窓に重なっています。(このへんですでに暑さボケしていますね。)「分光吸収スペクトル」について
いろんな化学物質の分光ふく射スペクトルを調べた文献を探してみてください。でもそのようなデータはどこにもありません。分光吸収スペクトルと全く同じものだからです。
単色ふく射率=単色吸収率という関係にあります。
この記事の本文の下側に、大気による
分光吸収スペクトルの図を添付しておきます。
地表での分光吸収スペクトルと高度11kmでの分光吸収スペクトルが違うのは、各温室効果ガス成分(特に水蒸気)の濃度が違うからですね。
さて、大気の窓以外の波長の赤外光は結局どこから宇宙空間に出て行っているのでしょう?
●Posted by 沈思黙考 at 2008-07-28 22:34:21
SGWさん、ご返事読ませていただきました。
突然の問いかけにもかかわらず、速やかに応答してくださり、感謝する次第です。いま少し、お相手ください。
> 「黒体ふく射をする物質」が現実に存在しているわけではありません。
私は、ご指摘の件は了解した上で、
CO2を重視することに疑問をもつ観点から、
黒体近似で記述できるスペクトル成分(大気の窓)について
言及したつもりなんですが、どこかおかしな点がありましたか?
> 微量な温室効果ガスの増加による影響が大きい
私はこの点・・・地球温暖化を有意に促すほどの効果を水蒸気以外の温室効果ガスに求めるのはおかしいと考えています。
> CO2についても15ミクロン当たりでこの大気の窓に重なっています。
重なっていないとまでは申しませんが、無視できる程度ではないでしょうか?
> 単色ふく射率=単色吸収率
アインシュタインのB係数(誘導放出係数=吸収係数)のことですよね?
アインシュタインのA係数(自然放出係数)まで考慮すると違うんじゃないですか?
私は、
> 一旦吸収されて分子の運動に変わったエネルギーは、
> 再びCO2の励起スペクトルの窓からふく射の形で
> 逃げ出す以外に逃げ場はないんだ
というご意見(・・・以外に逃げ場はない)に、温室効果ガスの吸収帯域以外の主たる逃げ場として、大気の窓がある旨を述べた訳です。
温室効果ガスの吸収帯以外の主たる逃げ場があるのか?ないのか? についての検討であれば噛み合うのですが、
> 大気の窓以外の波長の赤外光は
> 結局どこから宇宙空間に出て行っているのでしょう?
という問いかけは、論点がずれてませんんか?
●Posted by SGW at 2008-07-29 14:39:24
沈思黙考さん
>黒体近似で記述できるスペクトル成分(大気の窓)について
>言及したつもりなんですが、どこかおかしな点がありましたか?
一般的には、地表温度の黒体近似としては記述できない、欠けているスペクトル成分の波長帯「が」大気の窓と呼ばれています。すんません、後で将棋のマッタをかけさせていただきました。用語の使い方がどこかへんです。
>> 微量な温室効果ガスの増加による影響が大きい
>私はこの点・・・地球温暖化を有意に促すほどの効果を
>水蒸気以外の温室効果ガスに求めるのはおかしいと考えて>います。
大気の窓とは、実際には水蒸気がカバーしていない、欠けているスペクトル成分のことなんですが。
実績として、グラフのデータを見ていただければ分かるように、高度11kmにおける吸収の主体?は水蒸気以外の分子です。この層でのこれらの吸収率が1に近い波長での吸収とふく射には、これらの固有のスペクトルを持つ分子だけが関与しています。
水蒸気はこの高度(対流圏上端)には実質上存在していません(分圧が非常に低い)から影響を及ぼしていませんが、他の温室効果ガス分子は存在して、分光特性として現れているわけです。
>> CO2についても15ミクロン当たりでこの大気の窓に重
>なっています。
>重なっていないとまでは申しませんが、
>無視できる程度ではないでしょうか?
上に書いたように高度によって寄与の度合いは変わります。
>> 単色ふく射率=単色吸収率
>アインシュタインのB係数(誘導放出係数=吸収係数)の
>
ことですよね?
アインシュタインの係数については寡聞にして知りませんが、光は波長で決まるエネルギーを持っていることから、キルヒホッフの法則においてエネルギーバランスが整合性のある式としてなりたつためには、すべての波長にわたって、単色ふく射率=単色吸収率となっているわけです。
そうでなければ、まさに熱力学の法則が間違っていたことになり、熱を溜め込むブラックボックスができる、パラドックスが生じます。
つづく
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